恋の仕方、忘れました
じゃあ、試してみる?
…でも待てよ。相手は会社の上司だ。
嫌でも毎日顔を合わすのに身体の関係を持ってしまったら後々面倒なことになりかねない。
それにこれって私が主任を利用してるようなもの。
上司にそんなこと許されるのだろうか。
でもこの話を持ちかけたのは主任だし、もしかすると朝になったら二人とも忘れているかもしれない。
…いやでも大丈夫か大丈夫じゃないかと言えば絶対に後者だ。だって、だってだよ。
主任には彼女がいるはずだもん。
「返事は」
「えっ……と……」
頭の中で色々考えてみるけど、やっぱりどう考えても断った方がいいに決まってて。
それでも即答出来ないのは、きっと一条主任という人間に興味があるから。
この非の打ち所のないこの男を、もっと知りたいと思ってしまったから。
「ほんとに…優しくしてくれますか?」
気付いた時には、私もとんでもないことを口にしていた。
全部お酒のせいにすればいいかと、嫌な事に蓋をしたのだ。
「俺を誰だと思ってんの」と自信満々気に零す彼は、好きになってはいけない人。
でももしこれで祐真さんを忘れられなかったら、私の祐真さんへの気持ちは本物になる。
「でも私、主任のことは好きにならないと思います」
「そ。楽しみだな」
失礼なことを口走っているのは分かってた。
でもこうでもしなきゃ自分を保てない気がした。
私はただのメンヘラじゃない。ただ流されて好きになったんじゃないって思いたかった。
意地悪く笑う顔がまたかっこよくて、思わず見惚れてしまいそうになる。
それが何だか悔しくて、主任の手にあったジョッキを奪い取ると一気に口へ流し込んだ。
「さ、行こうか」
───もう後戻りは出来ない。