恋の仕方、忘れました
「別に、仕事が溜まってるから残業してるわけじゃないもん」


「何?聞こえない」



小声で愚痴を漏らすと、主任の耳には届いてなかったようで「何でもありませーん」と適当にあしらう。



「……このくそ」


「え、」



すると、唇を尖らせる私を見た主任が、突然席を立って険悪な顔でこっちに歩いてくるものだから、咄嗟に椅子を後ろに引いた。


けれど、私と主任の席はそんなに離れていないから、私が逃げるよりも彼が私の傍にたどり着くほうが早かった。



「ほんっとにお前ってアホなのな」


「……ありがとうございます」


「褒めてねぇよ」



開き直る私を見て深いため息を吐いた主任は、昨日と同じように私の隣の席に腰掛ける。

頬杖をつきながら私を見据える目は、怒っているのかと思えば意外にも優しさを孕んでいた。



「別にお前の仕事が遅いとか、お前に任せられないとかそういうこと言ってんじゃなくてだな」


「……」


「寧ろお前が過労で倒れたりしたら困るから言ってるだけで、まぁ…うん、俺の言い方も悪かったのかもしれないけど…」


「主任……」



尻すぼみしていく主任は若干照れているのか私から視線を逸らす。

その仕草が可愛くて、思わず笑みが零れた。

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