恋の仕方、忘れました
「あ、俺の名前は井上 健。略してイノケン」


「ほ、ほう…」




聞いてもいないのに勝手に自己紹介が始まって、すぐには帰してくれないのだと察する。
これはいよいよまずいけど、主任に電話するのも気が引けた。



「ねぇお姉さん、暇してる?」


「い、いいえ、とっても忙しい…です」


「ひとりで酒買い込んで?あ、ひとりで飲んじゃう系?俺が相手しよーか?合いの手入れてあげるよ」



いやそんな気分じゃないんですけど。

さっきは主任にあんなに強気でいけたのに、そこで力を使い果たしてしまったのかまた押しに弱い自分に戻っていた。


部屋に帰ったら連絡するって約束してるし、一刻も早く帰りたい。

それなのに



「もしかして傷心中?やけ酒の方?それなら相談乗るよ」



この彼の一言で、私はとんでもないことを閃いてしまった。


───この人、結構使えるかも。もしかしてこれは、主任への気持ちが本物かどうか確かめるためのチャンスなのでは…。


恐らく、主任の車から降りて早歩きをした時に一気に酔いが回ったのだろう。ずっと気を張っていたから、主任と別れて緩んだみたい。

だからなのか、何故かこの時の私はおかしくなっていて。




「俺が慰めてあげるよ?楽しいことして忘れよーよ」




目の前のチャラ男の意味不明な発言に



「……イノケンさん、テクニシャンですか?」



気付けば意味不明な返事をしていた。

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