カラフル
「なんで今日誘ってくれたの?」
 たー子が首を傾げて俺に尋ねる。
「別に……そこにたー子がいたから」
「なんだ、そっかぁ」
 たー子は少し残念そうな表情を見せた。
「最近お前、家来ねぇなーと思って」
「あぁ……」
「ネタ切れか? 次は、柿色のカーテンと焼き芋でも持って来んのかと思ってたんだけど」
「いいね~」
 たー子がケラケラ笑う。
 少しの沈黙の後、たー子がぽつりと言った。
「井上がもう元気そうだから」
 あぁ、そういうことか。
 俺はたー子に目を遣り、口元を緩めた。
 
 オレンジ色の灯りは女を艶っぽくみせるのだろうか。
 俯き加減にフォークを口に運ぶたー子につい見とれてしまい、不意に顔を上げたたー子と視線がぶつかって、俺は慌てて逸らした。
 気付かれてしまっただろうか。
「井上?」
「ん?」
 なにを言われるのかと緊張した。
「まだ彼女はいらないの?」
 思いも寄らない質問だった。
 俺がもし「彼女がほしい」と言ったら、たー子はなんと言うのだろうか。
「どっかにいい女いねぇかなぁ……」
 俺はたー子の顔色を窺う。
「井上は面食いだからねぇ」
 たー子は顔色ひとつ変えずそう言った。
 やっぱり朝倉の思い違いだろうか。
「じゃあさぁ、もしイヴまで彼女いなかったら、ケーキ作って持っていくから一緒に食べようよ。こう見えて実は私、趣味はお菓子作りなんだよね~」
「おぉ。別にいいけど」
 俺の返事を聞いて、たー子は満面の笑みを浮かべた。
「井上はさぁ、普通の生クリームとチョコクリームだったら、どっちがいい?」
「俺はチョコかな」
「オッケー」
 たー子は俺に彼女が出来ないのを前提で話している。
 まぁいいけど。

「美味しかったね~! ご馳走になって良かったの?」
「おぉ。俺が誘ったしな」
「そこにたー子がいたから、でしょ?」
「バカ、嘘だよ!」
「嘘なんだ」
 たー子は眉を少し上げてから安堵したような表情を見せた。
 遅いから家まで送ると言うと、「へぇー。一応私のこと女子だと思ってくれてるんだぁ」と、たー子ははにかんだように微笑んだ。
 なんだよその顔……。
 どちらともとれそうな、たー子の言葉とはにかんだ顔が、俺の心をもやもやさせた。今の関係を壊すのが怖くて、確証がないと踏み切れない。
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