カラフル
「なんで今日誘ってくれたの?」
 注文を終えて店員が去った後、たー子が首を傾げて俺に尋ねる。
「別に……そこにたー子がいたから」
「なんだ、そっかぁ」
 たー子の表情は、どことなく残念そうに見える。
「最近お前、家来ねえなーと思って」
「ああ……」
「ネタ切れか? 次は、柿色のカーテンと焼き芋でも持って来んのかと思ってたんだけど」
「いいね~」
 たー子が楽しげに笑う。
 それから少しの沈黙の後、たー子がぽつりと言った。
「井上がもう元気そうだから」
 ああ、そういうことか。
 俺はたー子に目を遣り、口元を緩めた。
 
 オレンジ色の灯りは女を艶っぽくみせるのだろうか。
 俯き加減にフォークを口に運ぶたー子につい見とれてしまい、不意に顔を上げたたー子と視線がぶつかって、俺は慌てて逸らした。
 気付かれてしまったかもしれない。
「井上?」
「うん?」
 何を言われるのかと緊張した。
「まだ彼女はいらないの?」
「え?」
 思いも寄らない質問に拍子抜けした。
 俺がもし「彼女がほしい」と言ったら、たー子はなんと言うのだろうか。
「どっかにいい女いねえかなあ……」
 俺はたー子の顔色を窺った。
「井上は面食いだからねぇ」
 たー子は顔色ひとつ変えない。
 やっぱり朝倉の思い違いだろうか。
「じゃあさぁ、もしイヴまで彼女いなかったら、ケーキ作って持っていくから一緒に食べようよ。こう見えて実は私、趣味はお菓子作りなんだよね~」
「おお。別にいいけど」
 俺の返事を聞いて、たー子は満面の笑みを浮かべた。
「井上はさぁ、普通の生クリームとチョコクリームだったら、どっちがいい?」
「俺はチョコかな」
「オッケー」
 たー子は俺に彼女が出来ないのを前提で話している。
 まあいいけど。

「美味しかったね~! ご馳走になって良かったの?」
「おお。俺が誘ったしな」
「そこにたー子がいたから、でしょ?」
「バカ、嘘だよ!」
「嘘なんだ」
 たー子は眉を少し上げてから安堵したような表情を見せた。
 遅いから家まで送ると言うと、「一応私のこと女子だと思ってくれてるんだぁ」と、たー子ははにかんだように微笑んだ。
 なんだよその顔……。
 どちらともとれそうな、たー子の言葉とはにかんだ顔が、俺の心をざわつかせた。今の関係を壊すのが怖くて、確証がないと踏み切れない。
< 7 / 10 >

この作品をシェア

pagetop