カラフル
 クリスマスイヴ。
 約束通り手作りケーキを持って、たー子がやってきた。普段より少し女っぽい格好をしているのは、イヴだからだろうか。

 ワインで乾杯して、宅配ピザとチキンと、たー子が作ってきた俺の好きなチョコケーキで腹を満たした。
「またまた持ってきました~!」
 たー子はいつもよりテンション高めに言いながら、袋から何かを取り出す。
「次はなんだよ」
 すげぇ楽しみだ。
「ジャジャーン!」
「え……?」
 たー子はクリスマスカラーの真っ赤なベッドカバーを俺に見せると、「可愛いでしょ?」と笑いながらベッドに広げた。
「こんなの興奮して寝れねぇじゃん」
「牛かよ!」
 カバーを整えるたー子が笑った――と思ったら、表情を強張らせた。
 気付いたら、俺はたー子をベッドに押し倒していた。
「たー子……」
「ちょ、ちょっと! なにすんのよ!」
 次の瞬間、俺はビンタを食らっていた。
「たー子!!」
 たー子は振り返りもせず、部屋を出ていった。
 やっちまった。

 それから数日後には年末年始休暇に入って、たー子と顔を合わせることもなく、次にたー子を見かけたのは、会社の新年会の時だった。
 いつもは輪の中心にいるたー子が、隅のほうでぼんやりしていた。
 俺は声を掛けることが出来なかった。

 数日後、たー子と仲のいい同期の伊東(いとう)佳奈(かな)が俺のもとにやってきた。
「たー子からなんか聞いてる?」
「え?」
 俺は首を傾げた。
「井上だったら知ってるかなと思ったんだけど……」
「なに?」
「たー子、ずっと元気なくてね。イヴに好きな人と一緒に過ごせるかもしれないって、すごく嬉しそうにしてたのに、年明け顔合わせたら、声掛けれないくらいに落ち込んでて……」
 俺は息を呑んだ。
 クリスマスイヴ、たー子は俺と一緒にいた。
 好きな人、というのは――
 たー子から笑顔を奪ったのは、俺だ。
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