恋をしたのはお坊様
横になりなさいなんて言ったくせに、黙り込んだ私をじっと見たまま動こうとしない隆寛さん。
だからと言って私も話す気になれず、にらみ合いが続いた。

「本当に、晴日さんは頑固だな」
「それは隆寛さんだって一緒です」

いくら私が口を閉ざしても、隆寛さんは納得してはくれない。
このままではきっと、私の方が根負けしてしまうだろう。
やはり、今日の隆寛さんはどこかおかしい。
いつもの穏やかさが感じられなくて、ちょっとだけ強引。
決して嫌なわけではないけれど、普段との違和感は否めない。

「誰かに何か言われたんだろ?」
「違います」
仮にそうだったとしても隆寛さんには言えない。

「嘘つきだな」
「別に嘘なんて・・・」

どれだけ誤魔化しても隆寛さんにはお見通しな気もするけれど、それでもすべてをさらけ出す勇気がなくて私は心に蓋をする。

「もういいよ、無理に聞こうとは思わない。でも、今度泣きたくなったら僕を思い出してほしい」
「隆寛さんを?」
「うん」

隆寛さんがどんな意図で言ったのかはわからない。
もしかしたら私が二度とバカな行動に出ないように釘を刺したのかもしれないし、これ以上迷惑はかけてくれるなって思いからかもしれない。
それでも、隆寛さんの側にいることが心地いいと知ってしまった今の私には、愛の告白に聞こえた。

「呼んだらすぐに来てくれますか?」
「ああ」

スッと差し出された右手に一本だけ立てられた小指。
え?
一瞬考えてから私も右手を出し、小指を絡めた。

「約束ね」
「約束だ」

体の中心から湧き上がる温かい波動。
全身が小刻みに震えるような感覚。
ドクドクとうるさいくらい聞こえてくる心音は、私のものとは思えない。
『恋に落ちる』ってこんなことを言うのよねと思う自分がいる。
この時、私は確かに恋をしていた。
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