紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
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田舎道に接続した正門にあるスライド式門扉は、開放されているというよりも、錆びついてずいぶん前から動かされていないようだった。
門を入ってすぐのところにある駐車場の発券ゲートには、『営業中』という真っ赤な文字をペンキでなぞり直した大きいだけが取り柄の案内板が立てかけてあるけど、逆になんだか帰りたくなる雰囲気を醸し出している。
「こんな田舎でガラガラなのに駐車料金で五百円も取るのか」
玲哉さんがあきれるのも無理もない。
広さだけで言えば立派すぎる駐車場は二百台分以上あって、それとは別に観光バスが止められるスペースも十数台分そろっているけど、もちろんバスどころか、一般乗用車の姿すらない。
おまけに駐車場の舗装は広い範囲でサーフィンができそうなほど波打ち、ところどころ隕石でも落ちたのかというような穴が開いていた。
「三角コーンなんて置いてないで補修すればいいのにな」
玲哉さんは愚痴を言いながら注意深くセダンを奥の方へ進めていく。
一般駐車場の奥にある事務所らしい建物の前に、メタリックというのか、ギラギラとした塗装の青いスポーツカーが駐車してある。
太いタイヤがハの字型についていて、車体が地面にこすりそうなのは故障しているからなのかな。
「これだから千葉の……は」
玲哉さんが吐き捨てるように何かつぶやいていたけど、なんと言っているのかは聞き取れなかった。
薔薇園の入場口近くにセダンを止めた玲哉さんは、車を降りると腰に手を当ててあたりを見回していた。
「想像以上にひどいな」
私も同じ感想しか出てこない。
おまけに、ドアを開けて外に出たら、いきなり舗装のひび割れにパンプスが引っかかって脱げてしまった。
バリアフリーどころか、行く手を阻む魔王の城みたいだ。
カジュアルな古着にフォーマルな自前のパンプスが似合わないことなんて、そんなことどうでも良かった。
母から譲られたハンドバッグだってちぐはぐだし。
それにしても、おじいちゃんの薔薇園って、こんなのだったの?
実はどこか別の所に本物があるんじゃないのかな。
入り口が違うとか。
「場所は間違ってないぞ。カーナビの登録地点もここだ」
さすが有能なコンサルタント。
私の困惑などお見通しですか。