紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
二人並んでウッドデッキに上がる。
「へえ、見晴らしはいいんだな」と、玲哉さんは身を乗り出すようにして眺めている。
「開放的ですよね」
テラスの正面は、両側を樹木に囲まれたゆるい下り坂になっていて、薔薇園全体を見渡すことができる。
坂の奥には池が広がり、何かの鳥が水面を漂っているのが見える。
ただ、ところどころ花が咲いているとはいえ、全体的に色合いが茶色っぽくて薔薇園らしくない風景かも。
「登記簿によれば、ここは元々ゴルフ場として開発されたんだ」
「だから両側が囲まれていて細長いんですね」
「このテラスがある場所はティーグラウンドで、遊歩道もカートの誘導路として作られたのをそのまま使ってるんだろう」
ああ、なるほど。
何度も来てるのに、そんなことにも気づいていなかった。
薔薇しか見てなかったから全体を見通せてなかったんだろうな。
「資料によれば、バブル崩壊で営業開始前に計画が中止になったのを昭一郎氏が買い取ったらしい。十八ホールの敷地のうち、薔薇園として使われているのはここだけだ」
「じゃあ、残りの土地は?」
「それを調べるのが今日の目的だ」
玲哉さんは経営コンサルタントの目で細かなところをチェックしていた。
テラスに置かれた金属製のベンチは泥で汚れていて、等間隔で並べられた天使の像は羽がもげたり鼻先が欠けていたりした。
その背中に向かって私はどうしても気になっていたことをたずねた。
「連絡先交換してましたけど、南田さんとメールするんですか」
玲哉さんはまるで関心がないかのように、点検を続けている。
「仕事で必要な内容は直接聞いた方が早いだろうな」
と、予想とは別の方へ話が変わっていった。
「経営陣が入れ替わったら、あの人には辞めてもらうしかないだろうな」
「え、どうしてですか?」
「悪い人じゃないんだろうが、薔薇園のイメージには合わない。民間営利企業の経営は慈善事業じゃない。無駄な人員は経営にはマイナスだ。赤字が増えるわけだ」
「そうでしょうか」と、なぜか逆に茜さんの弁護に回ることになってしまった。「そんな単純な話ではないと思いますけど」
相手は本物の弁護士なのに。
「平常時ならともかく、経営再建がかかってるんだ。リストラはされる方も残酷だが、する方だって断腸の思いだ。君がその判断を誤れば会社は潰れるんだぞ」
そう言われてしまうと何も反論できない。
私は経営なんて何も知らないんだし。
やっぱり、なんとかしたいという気持ちだけじゃだめなんだろうな。
「へえ、見晴らしはいいんだな」と、玲哉さんは身を乗り出すようにして眺めている。
「開放的ですよね」
テラスの正面は、両側を樹木に囲まれたゆるい下り坂になっていて、薔薇園全体を見渡すことができる。
坂の奥には池が広がり、何かの鳥が水面を漂っているのが見える。
ただ、ところどころ花が咲いているとはいえ、全体的に色合いが茶色っぽくて薔薇園らしくない風景かも。
「登記簿によれば、ここは元々ゴルフ場として開発されたんだ」
「だから両側が囲まれていて細長いんですね」
「このテラスがある場所はティーグラウンドで、遊歩道もカートの誘導路として作られたのをそのまま使ってるんだろう」
ああ、なるほど。
何度も来てるのに、そんなことにも気づいていなかった。
薔薇しか見てなかったから全体を見通せてなかったんだろうな。
「資料によれば、バブル崩壊で営業開始前に計画が中止になったのを昭一郎氏が買い取ったらしい。十八ホールの敷地のうち、薔薇園として使われているのはここだけだ」
「じゃあ、残りの土地は?」
「それを調べるのが今日の目的だ」
玲哉さんは経営コンサルタントの目で細かなところをチェックしていた。
テラスに置かれた金属製のベンチは泥で汚れていて、等間隔で並べられた天使の像は羽がもげたり鼻先が欠けていたりした。
その背中に向かって私はどうしても気になっていたことをたずねた。
「連絡先交換してましたけど、南田さんとメールするんですか」
玲哉さんはまるで関心がないかのように、点検を続けている。
「仕事で必要な内容は直接聞いた方が早いだろうな」
と、予想とは別の方へ話が変わっていった。
「経営陣が入れ替わったら、あの人には辞めてもらうしかないだろうな」
「え、どうしてですか?」
「悪い人じゃないんだろうが、薔薇園のイメージには合わない。民間営利企業の経営は慈善事業じゃない。無駄な人員は経営にはマイナスだ。赤字が増えるわけだ」
「そうでしょうか」と、なぜか逆に茜さんの弁護に回ることになってしまった。「そんな単純な話ではないと思いますけど」
相手は本物の弁護士なのに。
「平常時ならともかく、経営再建がかかってるんだ。リストラはされる方も残酷だが、する方だって断腸の思いだ。君がその判断を誤れば会社は潰れるんだぞ」
そう言われてしまうと何も反論できない。
私は経営なんて何も知らないんだし。
やっぱり、なんとかしたいという気持ちだけじゃだめなんだろうな。