紫の香りに愛されて ゆきずりのコンサルタントに依頼したのは溺愛案件なんかじゃなかったんですけど
「ひどいもんだ」と、玲哉さんがつぶやく。
「やっぱり花が咲いてないんですね」
「何を言ってる。南田さんの話だ」
え、ああ……。
ちょっとこういう場所には似合わないタイプかもしれないとは思うけど。
「でも、子供の都合に合わせやすいとか、安心して働いてもらえる体制って、悪いことではないですよね」
「そうじゃない」と、玲哉さんが声を荒げた。「顔や妊婦の腹を殴るような男は最低だ」
――え?
あ、ああ、そっちですか。
「暴力にはいろんな種類があって、身体的なDVもそうだし、精神的に支配しようとする心の暴力もある。研修時代に刑事事件で嫌というほど見てきた。そういう連中は、『ふつう』っていうのが分からないんだ。人の物は奪い取り、心は追い詰めて支配しなければならないと思い込んでいる。そいつらにとっては、それが普通なんだ。理由なんかない。最初から世界のルールが違うんだ。同じはずなのに見ている景色が違う。そんな相手と話し合いをしても無駄だ。逃げるしかない」
――逃げるしかない。
それは自分のことだった。
何不自由ない生活という檻に閉じ込められて、良家の娘という名札をつけさせられて自分の気持ちを出さず、常に言われたとおりにさせられてきた。
それが当たり前だと教え込まれ、疑問を持つことすら許されなかった。
体を殴られればアザができる。
でも、心を殴られても、外からは見えない。
みんなからは豊かな暮らしをうらやましがられるばかりで、助けてくれる人は誰もいなかった。
そんな私を初めて理解してくれたのが玲哉さんだったんだ。
私は後ろから夫の腕にしがみついた。
「おっ」と、彼が立ち止まる。「ん、なんだ。虫でもいたのか?」
「なんでもないです」と、腕をはなす。
ちょうど、茜さんに言われていたテラスに出たところだった。
「やっぱり花が咲いてないんですね」
「何を言ってる。南田さんの話だ」
え、ああ……。
ちょっとこういう場所には似合わないタイプかもしれないとは思うけど。
「でも、子供の都合に合わせやすいとか、安心して働いてもらえる体制って、悪いことではないですよね」
「そうじゃない」と、玲哉さんが声を荒げた。「顔や妊婦の腹を殴るような男は最低だ」
――え?
あ、ああ、そっちですか。
「暴力にはいろんな種類があって、身体的なDVもそうだし、精神的に支配しようとする心の暴力もある。研修時代に刑事事件で嫌というほど見てきた。そういう連中は、『ふつう』っていうのが分からないんだ。人の物は奪い取り、心は追い詰めて支配しなければならないと思い込んでいる。そいつらにとっては、それが普通なんだ。理由なんかない。最初から世界のルールが違うんだ。同じはずなのに見ている景色が違う。そんな相手と話し合いをしても無駄だ。逃げるしかない」
――逃げるしかない。
それは自分のことだった。
何不自由ない生活という檻に閉じ込められて、良家の娘という名札をつけさせられて自分の気持ちを出さず、常に言われたとおりにさせられてきた。
それが当たり前だと教え込まれ、疑問を持つことすら許されなかった。
体を殴られればアザができる。
でも、心を殴られても、外からは見えない。
みんなからは豊かな暮らしをうらやましがられるばかりで、助けてくれる人は誰もいなかった。
そんな私を初めて理解してくれたのが玲哉さんだったんだ。
私は後ろから夫の腕にしがみついた。
「おっ」と、彼が立ち止まる。「ん、なんだ。虫でもいたのか?」
「なんでもないです」と、腕をはなす。
ちょうど、茜さんに言われていたテラスに出たところだった。