サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

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「葵さん、……本当にごめんなさい」
「何言ってるの、彩葉ちゃんっ」

先輩の家に転がり込んで既に三日が経った。

先輩の奥様の葵さんは私より二歳も年下なのに、しっかりしていてとても大らかで優しい人。
気が利くし、料理は上手だし、何と言っても笑顔が可愛い。

先輩が惚れるのもよく分かる。
私が男だったら、彼女みたいな人を奥さんに出来たら幸せだ。

それに比べ、私は料理が苦手だし、仕事優先にして恋人は後回しだし。
恋愛には疎くて甘えるのも苦手で、女性らしさに欠けているとよく言われるくらいだ。

こんな私と将来を誓ってくれた郁さんは、もはや神様なんじゃないかと思うくらい出来てる人だ。

不規則な勤務と大企業を背負う立場に追われ、常に緊張が解けない日常で。
そんな大変な彼をサポートするどころか、心配ばかりかけている。

彼だって仕事が多忙で忙しいのに、私の職場に差し入れをしてくれたり、家に帰ればメモやプレゼントが置かれていることなんてしょっちゅうで。

私なんて、『緊急オペに呼ばれたので行って来ます』が常套句で。
彼を気遣っていても、いつだって彼の足下にも及ばない。

せめて、彼が自慢できるような恋人であり続けたいと思っていたけれど。
世間の目は、否応なく私を打ちのめす。

スマホは倒れて以来、触れていない。
だから、とうに充電が切れていると思う。
充電器が自宅にあるということもあるし、開いたら彼に電話をしてしまいそうで。

論文を纏めているノートパソコンが鞄の中に入っていて、先輩と同じメーカーだから、葵さんがアダプターを貸してくれた。
そのパソコンで、倒れて以来初めて、ニュースを観た。

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