サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
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翌朝、出勤前の先輩がゲストルームに現れた。
「彩葉、血取るぞ」
「……はい」
「結果は……帰宅時に持ち帰る。どうせスマホ切れっぱなしだろ」
「……はい」
「連絡入れなくていいのか?」
「………」
「俺の方から伝え「今大変な時だから」
「……ったく」
昨夜帰宅する時に採血用のキットを持ち帰った先輩は、手際よく採血し、それを病院へと持って行った。
葵さんは自宅で翻訳の仕事をしていて、お子さん二人は日中保育園に預けている。
家事をきっちりこなし、仕事もこなして……。
先輩が仕事に専念できるように完璧にフォローしている姿を見ると、自分の至らなさに気付かされる。
先輩の『俺が彼の立場なら、一、二年が限界だろうな』という言葉がリフレインする。
私が郁さんの立場なら、きっと先輩と同じ気持ちになると思うから。
男尊女卑の時代はとっくに終わっていると思っていたが、現実はそんなに簡単なものじゃない。
男性と同じ土俵で戦い続ける体力がそもそも足りないのに、周りからの圧力もある中、動じずに立ち振る舞う気力があるだろうか?
毎日仕事をこなすだけで手一杯なのに、彼のことを気遣える余裕が私には無い。
こんな私で、郁さんの未来は明るいのだろうか?
年末の忙しい時期に戦線離脱してしまって。
職場復帰する勇気が今は奮い起こせそうにない。
これが急性虫垂炎だとか、ストレス性胃腸炎なら話は別だ。
短期的な治療を施せば、直ぐに回復できる。
けれど、今の自分はそんな軽い症状ではない。
医師だからこそ、数値で知ってしまう現実がある。
今になって漸く分かったことがある。
郁さんが眼病を患って、失明も覚悟していた時期の心境が。