サイコな機長の偏愛生活

いつ消えてしまうか分からない蝋燭の炎を、必死に灯し続けようと努力している時。
そんな時に『恋』だの『愛』だの言ってられないということを。

我が身に降りかかって漸く気付かされた。

あの時、郁さんから別れを切り出されて、頭では分かっているのに心が追い付かなくて。
沢山の時間をかけて自分自身に言い聞かせていた。

命より大切なものはない……と。

だから、自分の恋愛感情なんて、お荷物にしかならないのだと。
それを悟るまでに一年以上の月日が必要だったけれど。
同じ環境に置かれて、漸く理解できた。

今、彼に連絡が取れなかろうが、大して問題ではない。
今、彼から離れたとしても、我慢出来るはずだ。
今、私から別れを告げたとしても……、きっと間違ってない選択だ、と。

だって、彼だって。
あの時、私と別れる選択をして、今があるのだろうから。

私にも、きっと望む形の未来があるはず……。

**

その夜、帰宅した先輩に頼み込んで、数日ぶりに自宅に足を踏み入れた。
郁さんがいるかもしれないと覚悟はしていたけど、やはり仕事に追われているようで不在だった。

ダイニングテーブルの上には置き手紙が残されていて、彼が心配してくれているのが分かっただけで満足。
重責を負いながらも、ちゃんと私のことを気に留めてくれているというだけで、身に余る想いだ。

だって私は……。

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郁さん、ごめんなさい

数日前から体調を崩して、
とある場所で治療に専念しています

今はお互いにすべき事に専念しましょう
私は私で、郁さんは郁さんで

話したいことは沢山あるんですが
今は話せる体力も気力もなくて

身勝手なのは承知しています

けれど、これ以外に
心を整理する方法が見つからなくて

本当にごめんなさい

           彩葉

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