サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
「今の所を巻き戻して」
エレベーターから玄関ポーチへと向かう彩葉。
ゆっくりとした足取りで、疲労感が窺える。
見たこともない服を着ていて、鞄すら持っていない。
自宅に滞在したのはおよそ十五分ほど。
再び通路の監視カメラの前に現れた彼女の手には、キャリーケースが握られていた。
着替えなどを取りに来たのだろう。
『治療』と書いてあった。
何の病なのかは分からないが、どこかの病院か施設などで療養しているのだろうが、何故俺に内緒にしなければならないのか。
ゴシップ記事の件で精神的に追い詰められるのは分かるが、これくらいの事で俺から離れるような彼女ではない。
それは俺が一番よく知っている。
もしかして、俺に言えないほど深刻な病なのだろうか?
だとしたら、余計に話して欲しいのに。
彼女の事だから俺に迷惑をかけまいと、あえて離れる決断をしたのだろう。
こういう時だからこそ、甘えてくれたらいいのに。
『迷惑』ではなく、こういう事だからこそ、俺を頼って欲しいのに。
いつだって彼女は自分のことを後回しにする。
俺がそうさせてしまっているのか……。
エレベーターに乗り込んだ彼女はエントランスへとは向かわずに、裏口の職員通用口へと向かう。
監視モニターの画像を切り替えて貰い、彼女の足取りを追うと、マンションの裏手にある道路に停車している車に乗り込んだ。
俺は知っている。
その車の持ち主を。
彩葉の上司でもある准教授の医師だ。
高級外国車のSUVでプレミアム限定モデルの型だから、国内に輸入されている台数もそう多くない。
俺も買おうかと思った車種だから、記憶に新しい。
あいつに聞けば、彩葉の居場所は分かるのか。