サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
何年ぶりだ?
……五年ぶりか?
不敵に微笑む郁の口角は鋭く持ち上がる。
テーブルの上に置かれた指輪を手に取り、無言で見据える。
スーツの胸ポケットから三色ボールペンを抜き取ると、それをカチカチカチカチッとペン先を出しては戻し、出しては戻しを繰り返す。
郁の瞳に閃光が宿った、次の瞬間。
ふっと指輪から視線を持ち上げた郁は、足音も立てずに歩き出した。
―――――ダンッ。
オフホワイト地にエンボス加工のような凹凸感のあるボタニカル調の模様の壁紙に、深くめり込んだ三色ベールペン。
そして、くるくると回る指輪。
ペン先は指輪の中心を射抜いている。
**
シャワーを浴びて、違うスーツに着替える。
寝るために帰宅した郁だが、脳に刺激があり過ぎて寝れる状態じゃない。
冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを手に取り、自宅を後にした。
十二月中旬の早朝五時過ぎ。
体の芯から冷えてもおかしくない寒風吹き荒ぶ、そんな冬の朝。
郁の車はとある高級住宅地の一角に停車した。
自宅から持ち出したミネラルウォーターを喉に流し込み、視線は一点を見つめて。
*
午前七時半過ぎ。
スーツを着たサラリーマンや制服姿の中高生が、郁の車の横を通り過ぎる。
運転席から下りた郁は、尚も一点を見つめたまま車のドアに凭れた。
程なくして、郁の視線の先に現れた一人の男。
彩葉の一つ上の先輩医師・葛城だ。
出勤するために駐車場へと現れた葛城に会うために、郁は五時過ぎから出待ちしていたのだ。
カツカツと小気味いい靴音を響かせながら、郁は葛城の元へ歩み寄る。
「今、お時間宜しいですか?」
「……構いませんよ」
葛城は視線を逸らし、深呼吸した。