サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



「本部長っ、その手、どうされたのですか?!」
「大したことない」
「大したことないって……、血が垂れてるじゃないですか」
「こんなもん、舐めときゃ治る」
「っ……、治りませんよっ!直ぐに手配しますので」
「チッ……」
「……今、舌打ちしました?」
「あ?………さぁ」

いつも通りに出勤したかと思えば、手から流血してるし、普段ならしない舌打ちはするしで……。
秘書の酒井は背筋が凍りつく感覚を覚えた。

ここ数年は完全に落ち着きを見せていた郁の闇の顔。
幼少期の厳しい躾と周囲の圧力に耐え切れず歪んだ性格に成長し、いつしかそれが人間性を破綻させるほど重症化してしまった。

本人は眼病が原因で前の恋人と別れたと思っているが、実際は違う。
眼病が発病して、正気を失った郁が恋人にした狂気の振る舞いが原因だ。

本人は正気を失っていて、完全に別人格になっているかのようで。
その恐怖から逃げようと、元恋人は酒井に助けを求めて来た。

精神的ショックが引き金になったのは言うまでもなく。
その常軌を逸した状態を元に戻すのに三年の年月を費やしたのだ。

そして、新しい恋に目覚めた郁を温かく見守っていたのに……。
再び、同じような悪夢をみるのでは?と不安に駆られる。

何としても引き止めねば……。

「朝早くにすみません。財前が手を怪我しまして、裂傷が酷いので縫合をお願いしたいのですが……。――…はい、宜しくお願いします」

酒井は空港内のクリニックに処置依頼の電話をかけた。

『あと二日だけ、持ち堪えてくれ……』そう酒井は切に願った。

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