サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
財前の靴先がテーブルを突き上げた。
そして、テーブルの下に差し出した手に何かが落ちる。
手にしていたグラスをテーブルの上に置く。
「俺と取引したいなら、こういう小賢しい真似は二度とするな」
もう片方の手に収められているものを和久井に見えるように掲げ、それをグラスの中にポトンッと落とした。
シュワッと泡立つ気泡。
その中には、黒い小型録音機が……。
テーブルの上に置かれたナイフを手にした財前。
カプレーゼの皿にそれを突きつけ、弧を描くようにスライドさせる。
室内に響き渡る、キキキーッという擦れる音。
目の前の女がぎゅっと目を瞑り、肩を縮こませて耳を塞ぐ姿を見据え、財前は満足げに微笑む。
「エスコートしてやるから、着飾って来いよ?」
「っ……、言われなくても綺麗にして行くわよっ」
「フッ、……楽しみにしてる」
和久井を視線で捉えながら、ナイフのスパイン(ブレードの背にあたる部分)を舌で舐めなぞる。
そして、そのナイフを真上から振り下ろすようにして、力いっぱいカプレーゼのトマトに突き刺した。
皿に盛られているトマトを貫通して皿ごと砕き、ナイフの先はテーブルに突き刺さった。
その光景に驚く和久井は、完全に硬直して動けなくなった。
「シャンパンはあまり好きじゃない、甘口ワインが好きでね。……覚えておけ」
席を立った財前は、優雅にドアへと進む。
「あ、言い忘れた。婚約会見が終わったら、今のような生活が出来なくなるから、一応職場に報告しておくんだな」
「それはどういう意味……?」
「大企業の御曹司が会見を開くんだ。会見だけで済むと思ってんのか?」
「あぁ……、分かったわ」
「各局呼ぶつもりだし、一度で終わらせたいから、カメラ映えのする状態で来い」
財前は顔の前に手を翳し、上下に振る。
『完璧な仮面をつけて来い』と言わんばかりに……。