サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)



「……んっ…」

スパイシーな香りが鼻腔を掠め、微睡む瞼を押し上げる。
……今夜のメニューはカレーらしい。

葛城家に無理やり転がり込んで早一週間が経過した。
先輩も葵さんも本当によくしてくれる。

まだ幼い子供二人抱えて、翻訳の仕事もしているのに。
葵さんは嫌な顔一つせずに三食きちんと用意してくれるし、毎日洗濯もしてくれる。
完全に居候状態の私は、この先、どうやってこのご恩を返せばいいのやら……。

何かあったら困るからと、ゲストルームのドアがほんの少し開けられている。
リビングから程近いこともあって、声を掛ければ分かるようにと。

壁掛け時計に視線をやると、十七半時過ぎ。
もう少ししたら、子供二人が保育園から帰る時間だ。
子供たちが帰ってくる前に夕食を作るようにしている葵さん。
母として、女性として、鑑のような存在だ。

壁掛け時計から天井へと視線を移すと、その間に視界に収まる輸液パック。
仕事で見慣れている光景なのに、薬剤名が違うからかな。
重い楔のような感覚に陥る。

普段は命を救うのに必要な輸液も、今はこれが私の命綱のようなもので。
普段何気なく視界に捉えているこれが、今は生死を分ける唯一の存在だと思い知らされる。

「……郁さんに……逢いたい」

点滴が施されてない方の手を額に当てる。
こんな弱々しい姿を誰にも見せたくないのに、無性に彼に逢いたい。
心が病んでいるのか。
切なくて涙が溢れて来る。

泣いたって仕方ないのに……。

目尻から一筋の涙が伝う。
いつからこんな涙脆くなったんだろう。
一週間くらい逢えなくたって、泣いたりしなかったのに。

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