サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
……そうか。
あるべきものが無いからだ。
左手薬指か胸元にあるはずのものが無いからだ。
自分が納得して置いて来たのに。
ちゃんとけじめをつけて、理解したはずのに。
まだ、心では認めきれてなかったようだ。
涙を指先で拭い、今一度自分自身に言い聞かせる。
郁さんの負担にだけはなってはいけない……と。
「ええええええええええぇ~っ!?」
なっ、……何??
リビングの方から葵さんの発狂する声が聞こえて来た。
ドアが五センチほど開いているから、ほぼ筒抜けのような感じ。
「葵さぁ~んっ!……どうかしましたかぁ~?」
輸液はカーテンレールに特大のS字フックを引っ掛け、それに吊るされている。
出来るだけ動かずに安静にしていないとならないんだけど、絶対に動いてはいけないというわけではない。
点滴のお陰で症状もだいぶ落ち着いて来て、先輩の話だとあと半月くらいしたら日常生活に戻れるんじゃないかって。
だけど、油断はできない。
医術に『絶対』は無いということは、医師だからこそ分かる。
「彩葉ちゃんっ……」
「………何か、あったんですか?」
ゲストルームへと姿を現した葵さんは、見たこともないほど動揺している。
視線が合わない。
落ち着きがないというか、普段おっとりとしている彼女からは想像もできないほど、挙動不審だ。
職業柄、相手の状態を把握する癖がある私は、上体を起こして彼女を見据えた。
「葵さん?」
「っ……、あのね……?」
気まずそうにしている彼女を黙って見つめていると。
「彩葉ちゃんのパソコン、潤くんのと同じだから、テレビ観れたよね?」
「……はい」
「今、付けられる?」
「……はい」