サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)

重い足取りでナースステーションへと向かう。
今日は十時から執刀することになっていて、その打ち合わせがあるからだ。

「彩葉先生、おはようございますっ」
「環先生、おはようございます」
「おはよう、今日もよろしくね~」

ナースステーションに入ると、申し送りを終えた看護師が慌ただしくしている。

先程のおちゃらけた表情ではなく、医師として真剣な表情で検査画像を見ている元宮。
そんな彼を見据え、フゥ~と大きな溜息が零れた。

仕事は出来る。
心臓外科医としてもかなり優秀で、彼も医大を首席で卒業したらしい。

別にだからと言って、何か惹かれるとかではないんだけど。
ただ単に、揶揄われているのとは違う気がして。
ほんの少しだけ、影響されている自分がいる。

「MDCT画像(複数のX線照射装置を備えた高性能なCT)届いてる?」
「あ、……はい、これです」

彼からマウスを取り上げ、検査データを細かく確認する。

執刀する手術は、大動脈疾患の治療法として行われる『ステントグラフト内挿術』(カテーテル)で、同じ手術を複数回していることもあり、血管自体がかなり脆くなっている。

「最悪、人工血管置換術に切り替えないとかな……」
「ですね。この状態だと、ステントではすぐに再手術になるかと」

心臓外科が専門の彼が言うのだから、選択は間違ってない。
患者の年齢が七十四歳ということもあり、体力的にも開胸するとなると負担が大きい。

それでも、手術をせずに経過観察では済まされないところまで悪化している。
ご本人には、万が一の時のための同意書も得ている。

出来れば、避けたいところだけど。

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