サイコな機長の偏愛生活

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「郁さん、今日は十五時からオペ入ってるので、少し遅くなりそうです」
「ん、分かった。終わったら連絡して?」
「は~い」

彩葉が飲み会をした、数日後の朝。
軽めな朝食をダイニングに並べた彩葉は、エプロン姿のまま席に着く。

「そう言えば、交換研修医って今日までだったよな?」
「あっ、……それなんですけど」
「……ん?」
「もう少し勉強したいとかで、二週間延長になったんですよ」
「は?……二週間」
「……はい」

元宮たっての希望で延長申請が出されたのだ。

准教授の選定中ということもあり、彩葉は頑なに拒否出来なかったのだ。
元宮の仕事ぶりは至って真面目で、葛城が不在の間は即戦力として活躍していた。

「今日はフライトあるんですか?」
「いや、無い」
「そうなんですね」
「明日は七時発岡山便の往復だから」
「はい、分かりました」

久しぶりにゆっくりと朝食を摂ろうとした財前であったが、『二週間の延長』という言葉に無意識に声のトーンが低くなる。
業務連絡のような伝達会話がそれを物語っている。

けれども、彩葉は目の前に大好きな恋人がいるだけで満足だった。
育ちのいい所作で食事する恋人を視界に捉え、久しぶりの眼福を味わう。

「早く食べないと遅刻するぞ」
「あ、はいっ」

彩葉は財前の言葉で、慌ててクロワッサンをちぎって口に放り込んだ。



「運転、気を付けて下さいね」
「ん」

靴ベラを使って革靴を履き終えた財前に、鞄を手渡す。

「いってらっしゃい」
「行って来ます」

彩葉から鞄を受け取り、彼女の額にそっと口づけた。

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