サイコな機長の偏愛生活(加筆修正中)
目の前にカップが置かれた。
久しぶりに彼女が淹れてくれた珈琲を味わう。
カップの縁から三センチの量。
お気に入りの珈琲豆の芳醇な香り。
口の中に広がるえぐみを削ぎ落す甘み。
完璧に俺好みの珈琲の味に、胸が熱くなる。
彼女がしっかりと覚えていてくれることに。
あえて一人掛けではないソファーに腰を下ろしている。
向かい合わせの方が話すのにはいいかもしれないが、気まずさが残る距離感が出てしまうと思って。
彼女は俺の隣りに無言で座った。
珈琲の香りではなく、俺の好きなヘアトリートメントの香りがふわっと鼻腔を擽った。
珈琲を一口含んだ彼女は、カップをテーブルに置いて、体の向きを俺の方へと向けた。
「郁さんっ」
「……ん?」
「ごめんなさい。嫌な思いをさせてしまって」
「………」
「言い訳出来る立場でないのは重々承知してます。してるんですけどっ、言わないで後悔したくないし、誤解も生みたくないので」
「………」
彩葉は鞄の中からスマホを取り出し、画面を俺の方へと差し出した。
「ん?……え、……これ、何の写真?」
彼女が何を言いたのか、全く読めなかった。
「この男性、誰だか、分かりますか?」
「……ん、……先月から交換研修医として来てた医師だろ」
「はい」
「……で?」
「その隣りの人を良く見て欲しいんですっ」
「…………んっ?……えっ」
スマホの写真をピンチアウトして拡大して気付いた。
奴と同じように白衣を着ているその女性の左薬指には、俺が彩葉に贈ったような指輪が収まっている。
「あの日、郁さんが見たのは、彼が恋人にプロポーズするための練習だったんです」
「………」