人間ルールブック
いつの間にか日が落ちて、心地よい夜風が
すずめちゃんの白いワンピースの裾を揺らしています。
すずめちゃんは小さな手の中で
ピンク色のスーパーボールをころころと転がしながら、
「あのおじさん優しかったね」とつぶやきました。
そのピンク色を目で追いかけながら、
「そうだね」と真緒くんが静かに答えます。
子どもたちがスーパーボールに気を取られている間
大人たちは少し離れたところで立ち話をしていました。
口元に手をあてながら楽しそうに笑う真緒くんのお母さんと、控えめにうなずく水木先生。
真緒くんは、すぐには声をかけませんでした。
お母さんがこちらに気づいていないことを確かめてから、再び視線をすずめちゃんの横顔へと戻します。
人々のざわめきと
祭囃子の喧騒が
どこか遠くに聞こえて、
まるで今
世界にすずめちゃんと自分しかいないような
そんな気に、真緒くんはなりました。
どきん、どきん、と早まる鼓動。
屋台の灯りがやわらかく2人を照らしています。
ゆっくりと近づいて
すずめちゃんの左耳にそっと手を添え、
消えそうな声で言いました。
「……あのね」
小さく震えるその声を
一文字もこぼさないように
すずめちゃんは目を閉じます。
「なあに?」
胸のあたりがじんわり熱いのに
つま先だけやけに冷たい。
それは、真緒くんが神様にも内緒にしていた秘密ーー
「僕、ピンクが一番好きなんだ」