⑥姫は成瀬くんに守られたい✩.*˚
 リハーサルを終え、本番が始まった。

 姫たちがステージに上がる。
 間隔をあけて4つ並べられた椅子に座り、講堂を見下ろす。

 式やイベントが行われる時に使われる講堂。ここは900人収容出来る大きさ。

 全体がオレンジ色の温かい色で照らされている。
 目の前には中心が空けられ、左右に分かれて並べられている、えんじ色した備え付けの椅子。

 そして、男子生徒たちが前に詰めて椅子に座っている。その中に成瀬くんの姿は、なかった。

 式がきちんと上手く出来るかよりも、どうしていないのかが、すごく気になる。

 学園長が舞台下のステージから見て右側に立ち、始まりの挨拶をする。

「それでは、これより第1回、姫立学園の騎士叙任式を行います。今回の式は、記念すべき第1回ですね」

 そして学園長は私たちの方向を向いて語る。

「姫たちも、入学してからたった1ヶ月でクラスの中の同級生からひとり騎士を選ぶの、大変だったでしょうね。もしも先生が姫だったなら選べなかったかもしれません……ふふっ」

 学園長が話終えると緊張した空気は柔らかくなった。

 司会の先生が進行する。
 
「それでは、1組。姫、楠田 あやか、騎士の任命をお願い致します」

 ピンク色のドレスを着ている姫が立ち上がり、正面を向き、片手を胸に当てる。

「はい! わたくしは、安西 陸を騎士に任命致します 」

 指名された男子生徒が立ち上がり、姫の元に向かう。

 私はちらりと座っている根本くんを見た。根本くんはじっとこっちを見ていて、私は思わず目を逸らしてしまった。頭に浮かぶのは成瀬くんの顔ばかり。

 彼は今どこにいるんだろうか――。

 そう考えているうちにもどんどん式は進んでいく。

「それでは、2組。姫、二條 沙良、騎士の任命をお願い致します」

 私は立ち上がり正面を向いた。

「はい、わたくしは……」

 言葉が詰まり、会場がざわめいてきた。
 言わないと。

「わたくしは、根本……」

 私が根本くんの名前を呼ぼうとした時だった。
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