⑥姫は成瀬くんに守られたい✩.*˚

第11話 騎士の指名

 真正面に見える講堂の扉が開いた。
 開いた音で生徒も先生も、皆が振り向く。

 成瀬くんがそこに立っていた。

「二條、任命……。やっぱり俺を騎士に任命しろよ! 全てが上手くいくから大丈夫だ!」

 堂々とした振る舞いで成瀬くんは前に進んでくる。

 彼は制服のズボンのポケットからスマホを出して操作を始めた。そして画面を根本くんに見せる。

 根本くんはすごく驚いた顔をしていた。

 それから再びスマホを操作し、音量を上げ、講堂全体に聞こえるようにして音を流し始めた。

『成瀬、俺、何もしてないのに背負い投げとかひどいよー』

『何もしてない? 今日の誘拐、考えたのお前だろ?』

『バレてた?』
 
「おい、成瀬、止めろそれ」

 根本くんが叫びながら立ち上がり、成瀬くんのスマホを奪おうとした。けれど、成瀬くんはそれを上手くかわして音は流れたまま。

『どうしてあんな事した?』

『誰にも期待されてなさそうなお前なんかには分からないんだろうな……』

『騎士に選ばれないと、家での立場も危ういんだ。完璧な兄貴と何もかも比べられて、もし今回騎士になれないと、親にも見捨てられる……』

『だからって、守る立場の姫を危険な目に合わせて……』

『本当に危険な目に合わせるつもりはなかったよ。俺も誘拐されそうになるふりして、そして犯人たちを倒すふりして沙良ちゃんを助けて……』

『ふりって……。実際、二條、本気であの時怖がってたぞ』

『その方が助けた時、俺のこと好きになる確率高そうじゃん。俺が沙良ちゃんと逃げる予定だったのになぁ』

「なんで録音してあるんだ? やめろ! とめろっ!」

 根本くんが大きな声で叫んだ。

 成瀬くんがスマホの音を止めて、こっちに近づいてきた。

「二條、お前の本当の気持ち、聞かせろ。騎士は誰がいい?」
「……私は、私は成瀬くんが、騎士だったらいいなって、思ってた」

「二條さん、成瀬くん、どういうこと?」

 学園長が問いただす。

「私、本当は成瀬くんを任命したかったんです。リハーサルとは別の人でも、良いですか?」

 ちょっとだけ間をおいてから学園長は言った。

「大丈夫よ! じゃあ、式を進めましょうか? なんか事件の香りがするわね。あとで関わってる人たち、みんな学園長室に来てくださいね」

「ありがとうございます」

 私は学園長にお礼を言うと、深呼吸をして正面を向いた。

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