⑥姫は成瀬くんに守られたい✩.*˚
「わたくしは、成瀬 樹(なるせ いつき)くんを騎士に任命致します!」

 正面に立っていた成瀬くんの瞳をじっと見つめながら言った。

「ありがとな」

 彼は微笑んでいるけれど、目がうるっとしている。

 それから舞台の上に来て、いきなり抱きしめてきた。

「ち、違うよ、成瀬くん。剣を舞台の下にいる若槻先生から受け取って、それを私に渡して、騎士は跪いて、私がひとこと言って、私が剣を成瀬くんの肩にぽんってして、成瀬くんも誓いの言葉を私に……」

「長いな、めんどくせえ。リハーサル参加してないし、何も分からん。でもやってみるわ」

 成瀬くんが階段を使わずに舞台をひょいとジャンプして降りた。いちいち動きがカッコイイ。先生から剣を受けとると今度は階段を使って舞台の上に戻ってきた。

 成瀬くんから剣を受け取ると、彼は私の前で跪いた。

「成瀬くん、私の騎士となり、どうか私を守ってください! よろしくお願いします」

 剣を優しく成瀬くんの右の肩に乗せた。

 思い描いていた言葉は『私を守りなさい』って、キリッと、もっとカッコよく言う予定だった。彼に伝えるのがドキドキしちゃって、こんな感じに。この騎士の叙任式、流れの決まりはあるけれど、言う言葉は、姫と騎士、各自それぞれが心を込めて、自分の言葉で言う。

 これが自分らしい言葉、かな?

「姫に忠誠を誓い、この身を犠牲にしてでも全力でお守り致します」

 リハーサルしてないのに私よりもしっかり自信満々に言う成瀬くん。
 彼に『姫』って言われて、心がキュンとした。

 他の人に言われても、私の心はそんなふうにならなかったな。

 その後は、後ろで待機している別の先生に剣を渡して、騎士につけるエンブレムを彼の胸元に。

 彼に触れるのを意識したら手が震えた。でもなんとか、つけれた。
 私の制服の赤とお揃いの色が彼の胸元に――。

 私は椅子に戻り、彼が私の後ろで立つ。
 私の出番は終わり、次のクラスの人たちも儀式を続けた。

 ほかのクラスの儀式が終わるまで、ずっと私の後ろに立っている彼を意識していた。

 
 
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