すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜


 落ち込みながらも急いでお風呂に入り必死で汚れを落とすと、すでにカイルは帰ってきていた。たくさんの美味しそうな食事と飲み物。それに追加で私の洋服とヘアブラシなど、身の回りの物までたくさん買ってくれたようだ。


(こんなにいっぱい。いいのかな……)


 チラリとカイルを見上げると、こんなにお金を使ったのにご機嫌だ。私が戸惑うのも想定内らしく「これは君を無断で崖から突き落とした償いだから」と言っている。


(カイルはむしろ助けてくれたのに……)


 でも難しいことは今の私には説明できないし、なにより受け取ったほうが彼の気持ちがラクになるのかもしれない。そう思った私はペコリとお辞儀をして、彼の思いやりの品を受け入れた。


「さ、食事も終わったし、明日も早い時間に出るから、もう寝ようか」


 心なしかカイルの声が震えているように思えるけど、気のせいだろう。お互い微妙な距離を保ちつつそろそろとベッドに入り、カイルは寝袋に入り、私は毛布をかぶった。


(緊張して眠れないかも……)


 私はバクバクと鳴る心臓の音を子守唄代わりに、ぎゅっと瞼を閉じる。すると次の瞬間、私はトントンと肩を叩かれた。


「よく眠れたか?」
「…………?」


 カイルが私をじっと見ながら「ぐっすり寝れたみたいで良かった」と言っている。その言葉にあわてて部屋を見渡すと、窓から明るい朝の光が入ってきていた。
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