すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
(うそ! 私あれからすぐに寝ちゃったんだ!)
カイルと同じベッドを使うことであんなにドキドキしていたのに、あっという間に寝てしまったみたいだ。緊張して眠れないかもと思った時から記憶がないし、もう朝になっている。
(もう! 本当に恥ずかしい!)
私はペコリとお辞儀をすると、すぐに身支度を始めた。カイルはだいぶ前に起きていたようで、テーブルには朝ごはんが用意してある。もうこれ以上、迷惑をかけたくない私は、クスクス笑うカイルを横目にさっさと食べて宿をあとにした。
「ここからは馬で行こう。半刻ほどで教会には着くはずだ。馬は初めてか?」
浄化の旅は荷物も多かったから、主に馬車で移動していた。それでも護衛の騎士たちは馬だったので、時々カイルに乗せてもらったことがある。
私が馬の腰あたりをトントンとさわってうなずくと、カイルは「……そうか。誰かの後ろに乗ったことがあるんだな」と、なぜか暗い表情で呟いた。
(もしかして、馬に一人で乗れないと足手まといなのかも! そうだよね。あの時だって遊びでちょっと、乗らせてもらっただけだし……)
申し訳ないなと思っていると、カイルは小声で「気にするなんて馬鹿だな」とわけのわからないことを呟き、私を馬に乗せてくれた。
久しぶりの乗馬はものすごく怖かった。遊びでパカパカ乗せてもらった時とは、まったく違う。これはカイルも私の乗馬経験を気にするわけだ。
「サイラ! もっとしっかり俺につかまってくれ!」
私はカイルに言われたとおり、彼の腰にしがみついた。小さく「よし!」と聞こえた気がするけど、それどころじゃない。