鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
(もし……私が彼だったとしたら、針の筵のような生き地獄だと思うだろう。だって、キースはその立場から、私のように逃げることが許されない。彼が生贄に等しい盾になっているからこの国は上手くいってるんだ。何もかも軽々とこなしているように見えて、周囲にはそう見せているだけで。キースは必死で、努力して来たはずだもの。それに、それはこれからだってずっとずっと続いていくんだ……彼が彼である限り、それは死ぬまで終わらない。そんな人の負担には、絶対になりたくない)

 キースの現在の立場は、オデットが元居た場所と比較すればある程度の自由が利くことだけは確かだ。

 逆に言えば、それ以外は彼の方がより過酷だろう。ただそこに生まれ落ちたというだけで、常に多数の目を向けられ期待に応え続けることを強いられて、自分には何の責がないことでも責められたりすることもあるだろう。

 現在は竜騎士団の最高責任者である彼は、何があったとしても苦笑して「いつものことだ」で済ませているけれど、そう心の中で折り合いがつけられるまで思い悩まず苦しくなかったはずなどない。

< 124 / 272 >

この作品をシェア

pagetop