鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「あー……ごめん。嬉しくて、思考が止まった。一応頭の中で反芻出来るように、記憶出来たと思うんだが。その可愛い声で、何回でも言って欲しい。俺が立ち止まりそうになったり、自信を失いそうになったら……傍に居てくれるだけでも、良いんだが、オデットがそう言ってくれたら、きっとどんな事があったとしても立ち直れるだろう」

 ゆっくりとしたキースの言葉に吸い寄せられるように彼の目を見つめていたオデットは、完璧に見える彼でも周囲に見せていないだけでどうしようもなく落ち込むことがあるのだと悟った。

 彼は成功者だ。誰が見ても、そう思うだろう。難しい立場でも確固たる地位を築き、今では誰かが文句をつけることすら難しい。

 だが、挫折したり思い悩む姿を、誰かに見せることは決してしなかっただろう。そうすれば、周囲に侮られ多くの敵に隙を見せることになる。誰かの上に立てばそれは致命傷になりかねない。

 彼が完璧に見えていることには、大きな理由があったのだ。

(私一人だけが、彼の弱い面を見ることが出来る。大変な立場のキースを、支えたい。役に立ちたい。だって……大好きだから……)

 難しい立場にあっても、嫌な顔ひとつ見せず面倒な事情を持つオデットの事を守ると言ってくれたのだ。そんな優しい彼の、少しでも役に立ちたかった。

 そのためには自分はどうなったとしても、構わないから。

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