鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「私は、月魔法を使うことしか出来ないんです。だから……もし、それを役に立てれればと」

「……あのさ。お姫様の価値は、お姫様自身で決めれば良いんじゃないか。俺がさ。今、どうこう言葉を重ねて言ったところで、あんたは本当の意味では納得はしないんだろう? こうして、膨らんでないパンも焼くことが出来るし。料理も掃除も、色々教えて貰って出来る事が増えたんだろう。人類の中でもお姫様一人にしか使えないかもしれない稀有な能力を保持していることは、俺も重々承知している。だが……俺にはまるで、それだけしかお姫様は自分の価値がないと言っているように聞こえるよ」

 オデットは産まれた時から、月魔法を使うことを期待され今まで生きていた。だから、それこそが自分にある価値なのだと思って来た。

(キースは……あの人は私が私だから、好きなのかもしれない。何もかも知っている彼だからこそ、何も知らない私を守ろうと思ってくれたのかもしれない。役に立ちたいのに、治癒の力を使うこと以外の方法がわからない)

 何も言わずに落ち込んでしまった様子のオデットに、アイザックは声を掛けた。

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