鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「いや。なかった。悪かった。打算を覚えた、嫌な大人の戯言だ。忘れてくれ」

 キースはそう言って、目の前に用意された夕食を食べ始めた。美味しいと言ってくれて、さっきの話はもう蒸し返さなかった。

 オデットがエイミーに料理を習い始めて、最初こそ勝手が分からずにひどい料理だった自覚はあった。けれど、今は先生が太鼓判を押してくれるほどにまで腕は上達した。

(何も知らなくて出来なかったことも、一生懸命努力すればいつかは出来るようになるんだ。私にだって、キースのために出来ることがあるはず)


◇◆◇


 オデットがまるでそれ自体が大きな芸術品に思えるような城に来て、初日。

 キースが直前に執務室から出て行ったものの、彼の部下と思わしき竜騎士に何処に居るのかと尋ねられ、彼はまだ遠くに行ってないだろうとオデットは真っ直ぐな広い廊下を小走りに進んでいた。

 この城は広く、造り自体は単純だ。だから、すぐに追いつくだろうと踏んだのだ。

 ある大きな曲がり角に来た時に、あげつらうような低い声が聞こえてオデットは思わず足を止め立ち止まった。

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