鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「悪い。バカにしたりとか、そういうつもりではない。オデットを下に見た訳じゃないんだ。あー……可愛かっただけだ。つまり、歳の離れた恋人にでれでれとして、鼻の下を伸ばすとても痛い男だとでも思ってくれて構わない……さっきのは、最終的に勝つために、戦力を温存する作戦として逃げる戦略もあるって事だ。一度逃げても力を溜めて、作戦を立ててまた挑戦すれば良い。どんなに知略に優れた軍師でも、戦闘中に撤退を選ぶのは勇気がいる。それをしたんだ。つまり、いつか勝つために逃げるんだ」

「勝つために……逃げる……」

「オデットはあの時、たった一人だった。あのイカれた男の所有物となっていたのなら、味方など誰も居なかっただろうし、周囲は巻き込まれるのを恐れて動かなかっただろう。そんな場所で良く耐えて、逃げ出すために勇気を出した。偉かった。誰にも、それを恥ずかしく思う必要などない」

 ぎゅうっと強い力で抱きしめられて耳元で囁かれる低い声は、オデットの身体全体に染み渡るようだった。

 きっと誰が何を言って来ようが、彼一人さえ認めてくれればオデットはそれで良かった。

(キースは、優しい。いつでも、私の欲しかった言葉をくれる。そんな彼にこんなにまで大事にされているというのに、心の中にある焦げ付くような焦燥感はなんなんだろう……私は彼に相応しくありたいのに。このままでは、いけないのに……)

 これはキースに言っても、わからないだろう。彼に庇護されたお荷物のような付属品のままで、人生を終わりたくない。

 自分だって、彼を守り支えたい。

(でも……どうしたら……)

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