鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 スピアリット公爵家へと臣下に下りるための婿入りが出来たのは、兄にあたる前王、彼の父親が無理をおして融通してくれたからだそうだ。

 キース本人には関係のない事ではあるが、確かにそれが無ければキースも生まれて来る事が出来なかった。

 その流れから、キースの父親は現王の要望を断り切れずに可愛いはずの息子を差し出し、王家を守る生きる盾にすることに渋々ながらも頷いた。

(……お前に。俺がこなしている全ての役割が果たせるなら、いつでも代わってやるよ。出来るのか)

 事情をすべて知っている訳でもない誰かに、当て擦りのような嫌味を言われる度、キースは何度大声で叫び出しそうになったかわからない。

 だが、それは出来なかった。

 王族の立場にあれば、仕方ない。血で繋いで来た王族が、自分に成り替わってみろなどと言うことは決して許されはしなかった。

 望まぬ贅沢なものを与えられ続け、それに縛られたままで、幼い頃からキースは生きていくしかなかった。

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