鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
(誰かを羨ましい妬ましいと思っている連中は、表面に当っている栄光と呼ばれる強い光しか見えていない。それが、どんなどす黒い闇の影を作り出すかなんて。想像した事が、果たして一度でもあるのだろうか)

 ヴェリエフェンディの竜騎士団の団長は、指名制だ。

 新人と呼ばれて差支えのないキースに、まだ若い当時の団長に、お前が団長になれと指名された時、驚き戸惑う新人の竜騎士に彼は静かに言った。

「これから。お前にはもう、自分の持っている力を示し続ける他に、生きて行く道は残されていない」

 まだ代替わりを考えるような年齢でない若き団長の彼の言ってくれたことは。今思えば、その通りだった。

 聡明なあの人は、自分ではどうしようもないものに雁字搦めに縛られ続けるしかないキースを理解し立場を思い、経験の少ない竜騎士だったとしても、団長に据えて、彼の助けになるような肩書きを与えるしかないと判断したのだ。

 彼は単なる部下の関係性にしかなかったキース一人を守るため、それだけのために。誰にでも誇れるような役職を、惜しげもなく譲ってくれた。

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