鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 こういった男性同士の普段の会話に慣れていないオデットが、思わずはらはらとしてしまう荒っぽいやり取りも彼ら自身には特に珍しいことでもなく日常茶飯事のようだった。

「良く言う。どんなに良い相手が懇願しても、断って来た奴が」

「好きになれない女性と結婚するのは、嫌だろう。一生一緒に居るんだぞ」

「また、若い女の子みたいなことを言い出して……お前みたいな貴族には、それは通じないんだよ。大人しく政略結婚しろよ」

 呆れ顔のアイザックに対して、キースは飄々として笑った。

「自分の好き勝手をしようと、こんなに面倒なことしかない竜騎士団の団長やっている。何かひとつ面倒を避けようとして、更なる大きな面倒事を背負うという人生の教訓だ。この身を以て、人に教えることが出来るな。ああはなりたくないという例を体現している俺を、国民全員で反面教師にしてくれて良いわ」

「まあ、普通は王弟の息子が竜騎士なんて志さないだろうがな。根っからの、変わり者がよ」

「どうしても、竜に乗りたかったんだ。そうしたら、竜騎士になるしかないだろ」

「お前の立場なら、竜騎士に乗せて貰えば良いじゃないか。否やは、言えないはずだ」

「それは、ただの地位を傘に来た命令だろう。自分で出来るようになるのと、誰かにそうして貰うのは天と地ほどの差があるんでね」

「……そこのお姫様。俺たちの事はもう気にしなくて良いから、早く朝食食えよ。冷えるぞ」

 二人の掛け合いをじっと見て食事の手が止まっていたオデットを見て、アイザックは大きく息をつきつつそう言った。

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