鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「こんにちは。アイザックさん」

「どうも、お姫様。キースは……まだ、戻ってないんだな」

 アイザックはソファに座って居たセドリックを見て、苦笑した。キースがいない間は、いつもそうだから彼もルールを理解している。

 物慣れないオデットのお守り係を丁度良いと交代するつもりなのかセドリックはアイザックと入れ替わるようにして、部屋をゆっくりと出て行った。

「ええ。今日は何か、大事な用事があるとかで城に……」

 掃除道具を置いたオデットの言葉に、部屋の中へとゆっくりと入って来たアイザックは頷いた。

「ああ……その事で、少し話がしたかったんだが……そろそろ帰って来る時間だろう。悪いが、待たせて貰う」

 大きな身体と一見怖そうな造作の顔を持つアイザックは、見た目威圧的で口調も荒っぽい。だが、そんな印象に反してオデットに対し彼は優しく心を砕いてくれた。キースは上流階級の息子だから庶民の常識がわからないと細々とした女性に必要な品を率先して揃えてくれたし、何かと気を使ってくれるのだ。

「どうぞ。お茶でも淹れましょうか……?」

「……ありがとう。貰おうか」

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