鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 何の装備もない銀竜に必死で乗り、なんとか首にしがみ付くことの出来たオデットはあっという間に空を飛んでいた。

 上昇の驚きに瞑っていた瞼を開いた時、そこは月明かりに光る雲。

「……わあ」

 オデットは自分がうっかり落ちてしまえば致命的な高度にいる事も何もかも忘れて、ただ感嘆の声をあげた。

 闇の中にあっても輝く月に照らされた雲は、心を震わせるほどに美しくまるで夢の中に居るようだった。

(綺麗……すごい……竜に乗れば、こんな景色も見ることが出来るんだ)

 セドリックは首にしがみ付いているオデットを落とさないように、細心の注意を払い慎重に飛行していた。いつものような早い移動速度ではなく、あくまでゆったりとした羽ばたきだった。

 オデットは竜の背に乗り、雲の上で月明かりを浴びた。剥き出しになっている白い肌から、身体中にじんわりと染み渡っていく月の魔力。

(綺麗……この光景は、きっと忘れない。私がおばあちゃんになったとしても、きっとずっと。記憶から、消える事はないんだわ……)
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