だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 もう彼女と口を利くのも嫌で無視をする。すると有沢さんはふっと微笑む。

「十河さんの好みに合わせたのかと思ったの。寧々さんも以前、髪を伸ばしてまっすぐにされていたから」

 それだけ言うと有沢さんは、そのままさっさと踵を返して去っていった。耳鳴りがしそうなほどの静寂が玄関に降りてくる。

 ややあって両手で顔を覆い、大きくため息をつく。

 久弥さんに関して、初めて聞くたくさんの情報が有沢さんから伝えられた。とはいえ、彼女も人伝いに聞いた話だ。鵜呑みにする気はない。

 けれど、すべてが嘘でもないのだろう。おかげで少しだけ目が覚めた気がする。

『私、子どもが欲しいんです』

『いつか自分に子どもができたら家族で楽しい思い出をいっぱい作るんです』

 喜々として夢を語る私を、久弥さんはどう思っていたんだろう。私とは相容れないって、この結婚の終わりを考えていたのかな。

『聞けてよかった。話してくれてありがとう』

 うつむくと顔を隠すように長い髪がはらりと落ちる。いつも通り耳に髪をかけて、その手を止めた。

『留衣の髪はずっと触っていたくなる』

 久弥さんに褒められて嬉しかった。髪に触れられても、彼が相手なら嫌な気持ちひとつない。むしろもっと触ってほしくなる。髪以外も全部。私にとってとっくに彼は特別だった。

 でも、久弥さんは違うんだ。女性の髪に触れるなんてなんでもないことで……。
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