だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「瑠衣は強いな。俺は自分のような思いをさせたくないし、両親の存在をほとんど覚えてないから愛し方もわからない。だからずっと、子どもはいらないと思っていた」

 久弥さんが子どもが欲しくない理由は、自身の経験が影響していたらしい。なにも言えない私に対し、久弥さんは私の髪をそっと撫でた。

「でも瑠衣は、自分がしてもらえなかったことを、その分子どもにしてやりたいって……そんなふうに俺は思えなかった。けれど、瑠衣となら子どもを持つ未来を描いてみたいと思う」

 彼の言葉に身をよじって思わず振り返る。すると優しく笑う久弥さんと目が合った。

『いつか自分に子どもができたら家族で楽しい思い出をいっぱい作るんです。動物園とか水族館とか……公園でも。たくさん出かけて、たまにケンカをしても笑顔の絶えない家庭を築く。自分が得られなかったものを違う形で叶えたいなって』

 ごく普通のありふれた家庭に憧れていた。私にとってはなによりも尊くて遠いものだったから。

「瑠衣の夢を俺も一緒に叶えさせてくれないか?」

 涙ぐみそうになり唇を噛みしめる。目を瞬かせ、こくりと頷いた。

「ありがとうございます。久弥さんは私の欲しいもの、すべてくれるんですね」

 笑顔で答えると久弥さんは目を見張り、切なそうに顔を歪めた。ゆるやかに唇を重ねられ、心が満たされていく。

 久弥さんに出会って、こんなにも誰かを愛しいと思うのも、ありのままの自分を受け入れてもらえる安心感も全部が初めてだ。
< 189 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop