だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「大変ですね。でも、そんな忙しい中でも光子さんのところに顔を出して……優しいですね」

「優しいとは思わない。祖母が、祖父母が親代わりとなって育ててくれたから当然だと思っている」

 対する久弥さんからは淡々とした回答がある。目を見張る私に、彼は事情を話していく。

 光子さんには息子さんがふたりいて、TOGAコーポレーションの現社長は長男であり、久弥さんは次男の息子だそうだ。久弥さんのご両親は久弥さんが幼い頃に事故で亡くなり、彼は光子さんと亡くなった前社長、久則さんのもとで育ったらしい。

 正直、とっさにかける言葉が見つからなかった。ただ自分の経験からすると、下手な慰めはどうしても薄っぺらくなりがちで、余計なお世話になる。現に久弥さんはこちらの反応などまったく気にせずに続けていく。

「伯父のところにも息子はいるし、俺がTOGAコーポレーションを継ぐ必要はないんだ」

「必要がないから継がなかったんです?」

 なんとなく言い方が引っかかり、ここでつい踏み込んでしまった。発言して慌ててフォローを入れる。

「すみません、なんでもありません」

 やはり異性相手のやりとりは難しい。これが子どもや同性が相手ならもう少しマシなんだけれど、大人の男性との会話はことさら苦手だ。

 私に父親がいないのもあるのかな。

 せっかく料理が美味しいので、黙々と食べ進める。どんな味付けや調理法でこんなふうに仕上がるのかと考えながら箸を動かす。
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