だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 美味しい。自然と笑顔になり、ふと状況を思い出す。

 そもそも久弥さんはこの時間をどう捉えているのだろう。仕事で忙しいうえ、彼なら誘う相手に困らないだろうし、楽しく会話が盛り上がれる女性は他にたくさんいるに違いない。

 まぁ、これが最初で最後だろうな……。

 そう思ってちらりと彼の方に視線を送ると、なぜか久弥さんは箸を置いてこちらをじっと見つめていた。彼の行動に驚き、どうしたのか尋ねようとしたそのときだった。

「俺と結婚してくれないか?」

 彼の低くよく通る声は確実に耳に届いた。しかし意味が理解できない。空耳にしてはリアルだが、言われた内容からすると夢か聞き間違いか。

 動揺さえ起きない。だってなにかの間違いなのはあきらかだ。しかし確かめずにはいられない。

「結婚って誰とですか?」

「君以外、誰がいるんだ」

 この場に、という意味だろう。脳内で補完して平静を保つ。彼の目的は一体なんなのか。

「期間は半年ほど。多少前後する可能性はあるが、そう長くはない」

 疑問に答えるわけではないが、彼のこの発言でワケありだと悟る。いや、最初からなにか事情がないとこんな馬鹿げた話をするわけがない。

 なにも返せず、ただ久弥さんに視線を送ると、彼は整った顔を歪め目線を下げた。

「祖母は、このままだとあと半年だと言われている」

 静かに語られた内容に冷静さは吹き飛んだ。あきらかにうろたえる私に、久弥さんは慎重に語っていく。
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