まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え①~人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

058 じじょう

 春くんが再度の懇願したその時、表からブレーキ音がした。

 もう新車も納入されていて理人さんと雄吾さんの二人はどちらも車で出掛けているから、どちらかが帰って来たのかもしれない。

 春くんはハッとした顔をして、一気に獣化すると私の横をすり抜けて行った。すぐに玄関の扉の音がして、誰かが入って来た靴音がした。

「……透子?」

 雄吾さんだ。座り込んだままだった私は、慌てて駆け寄った。

「おかえりなさい」

 笑顔がぎこちない私に片眉をあげると、雄吾さんはふうっと大きく息をついた。私のおでこを、指でピンと弾いた。

「あまり、春をいじめないでやってくれよ」

「……でも」

「何があったか知らないが、あいつが脇が甘いのはいつものことだから。あまりいじめすぎると、家出するぞ」

「春くんって……家でしたことあるんですか?」

「ああ。何度かね。あいつは紅蓮の里からも家出同然で出てきたし。行くところもなく、今までは探しに行くまで、山の中で籠っているだけだったけどな」

「どうしよう……」

「……何があったか、もう聞いても?」

 雄吾さんは私の背中に手を当てて、リビングのソファに腰を落ち着けた。

「……春くんが……」

「ああ」

「私の目の前で、別の女の子とキスしたんです」

「春から?」

「違います。無理矢理。不意打ちで」

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