春、忍ぶれど。
 こうやってたまに見つけて、そうして見ているだけで、満足なのだ。これ以上を願っては、きっと良くない。素晴らしい彼はいつか可愛い恋人を作って幸せそうにしているのを、物陰で見ているだけでそれだけで構わない。

 そう、こうして遠目で彼を物陰から窺っているだけで、満足出来る。それで良いのだ。

 今は定時で城から出ていく日勤の人間は多い。城門を出たばかりのラルフはやはり誰かを探すように辺りを見回しては、小さくため息をついている様子だ。そんな彼を見て首を傾げる。誰か、探し人でも居るのだろうか。

「シャロン、何してるの?」

 その声に慌てて振り向く。口の前に人差し指を立てたシャロンを見て同僚のリサがなんとも不思議そうな顔をしているが、城門の辺りに立っているラルフを見るとにやりとした笑みを浮かべた。

「例の騎士様じゃない。なんだか、人待ち顔みたいだけど、今なら無理なく声かけられるかもよ? 何度か挨拶してみたら、顔だけでも覚えてもらえるかも」

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