新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜
「何故、お前が泣く」
その問い掛けに、ただ首を横に何度も振った。
「勝手に……勝手に私……泣いてるだけですから……気にしないで下さい」
「また、俺が泣かしたみたいだな」
そう言った後、黙ったまま高橋さんが涙を拭ってくれていたが、あまりにも泣き止まない私を見て棚の上からティッシュを取ると、ティッシュで涙を拭いてくれていた。
「ごめん……なさい。でも、私……」
「もう、今夜は寝た方がいい」
言い掛けた私の言葉を遮るように、高橋さんにそう告げられた。
「何も考えずに、ゆっくり休め」
「はい……」
高橋さんは、乱れてしまった私の髪を手櫛で整えてくれると、そのまま立ち上がってドアの方へと向かっていった。
ベッドに寝たまま後ろ姿を見ていたが、高橋さんのその背中に触れたいと思った。このまま高橋さんが、部屋を出て行ってしまったら……。何だか、呼び止めずにはいられなかった。
「高橋さん」
その声に、高橋さんが振り返った。
「あの……ごめんなさい」
「おやすみ」
後ろから照らすリビングの明かりで、浮き彫りになった高橋さんの姿だったが、直ぐに寝室のドアを閉められてしまった。
暗闇の中に突き落とされたような、再び部屋が真っ暗になってしまい。目が慣れるまで時間が掛かりそうだったので目を瞑ったが、目を瞑ると高橋さんの先ほどの表情が蘇ってきて、胸が苦しくなっていた。
『多分……忘れないだろうな』
あんなこと、聞かなければ良かった。聞かなければ……。
心がざわついたまま、眠りについたせいか。眠りが浅かったから、睡眠不足のせいなのか。そのどちらでもなく、ただ単に泣き過ぎたせいなのか。
翌朝、目覚めてからバッグに入っていた化粧ポーチから鏡を取り出してみると、恐ろしいほどに目が腫れていた。
最悪だ……。
急いで着替えて、寝室からそっと出て洗面所に向かおうとしたが、まだ頭がボーッとしていたせいで、洗面所とは反対のベランダ側の部屋のドアを開けようとしていた。
嫌だな。まだ、寝ぼけてるみたいだ。
左足を庇いながら向きを変えようとして、ふと2つ並んでいるドアの左側のドアの奥に、もう1つドアがあることに気づいた。
あれ?
昨日まで気づかなかったけど、もう1つドアがあったんだ。此処も、部屋かな? 広いなあ……。私の家とは、大違いだ。
「そこで、何してる?」
エッ……。
「あっ。高橋さん。おはようございます」
「おはよう」
一番右のドアの部屋から高橋さんが出て来てこちらに近づいて来ると、ドアの前に立った。
「すみません。何か、まだ寝ぼけてたみたいで洗面所と間違えてしまって、こっちに来ちゃいました。此処も、お部屋ですか? 昨日まで、気づかなかったです。もう1つドアがあったなんて。あの……あとで、お部屋見学してもいいてすか? モデルルームみたいに」
「ああ」
「やったあ」
嬉しいな。他のお部屋が、どんな感じなのか見てみたい。
「それはそうと、お前。その顔、何だ?」
エッ……。
ハッ!
そうだ。目が腫れてたんだった。
「キャーッ。み、見ないで下さい。見ないで」
「見ないでと言われても、もう見た」
高橋さん。
何で、そんなにハッキリ言うんですか……。
左足を庇いながら急いで洗面所に向かい、目を冷やしながらメイクをしてからリビングに戻ると、高橋さんがキッチンで朝食を作っていた。
その問い掛けに、ただ首を横に何度も振った。
「勝手に……勝手に私……泣いてるだけですから……気にしないで下さい」
「また、俺が泣かしたみたいだな」
そう言った後、黙ったまま高橋さんが涙を拭ってくれていたが、あまりにも泣き止まない私を見て棚の上からティッシュを取ると、ティッシュで涙を拭いてくれていた。
「ごめん……なさい。でも、私……」
「もう、今夜は寝た方がいい」
言い掛けた私の言葉を遮るように、高橋さんにそう告げられた。
「何も考えずに、ゆっくり休め」
「はい……」
高橋さんは、乱れてしまった私の髪を手櫛で整えてくれると、そのまま立ち上がってドアの方へと向かっていった。
ベッドに寝たまま後ろ姿を見ていたが、高橋さんのその背中に触れたいと思った。このまま高橋さんが、部屋を出て行ってしまったら……。何だか、呼び止めずにはいられなかった。
「高橋さん」
その声に、高橋さんが振り返った。
「あの……ごめんなさい」
「おやすみ」
後ろから照らすリビングの明かりで、浮き彫りになった高橋さんの姿だったが、直ぐに寝室のドアを閉められてしまった。
暗闇の中に突き落とされたような、再び部屋が真っ暗になってしまい。目が慣れるまで時間が掛かりそうだったので目を瞑ったが、目を瞑ると高橋さんの先ほどの表情が蘇ってきて、胸が苦しくなっていた。
『多分……忘れないだろうな』
あんなこと、聞かなければ良かった。聞かなければ……。
心がざわついたまま、眠りについたせいか。眠りが浅かったから、睡眠不足のせいなのか。そのどちらでもなく、ただ単に泣き過ぎたせいなのか。
翌朝、目覚めてからバッグに入っていた化粧ポーチから鏡を取り出してみると、恐ろしいほどに目が腫れていた。
最悪だ……。
急いで着替えて、寝室からそっと出て洗面所に向かおうとしたが、まだ頭がボーッとしていたせいで、洗面所とは反対のベランダ側の部屋のドアを開けようとしていた。
嫌だな。まだ、寝ぼけてるみたいだ。
左足を庇いながら向きを変えようとして、ふと2つ並んでいるドアの左側のドアの奥に、もう1つドアがあることに気づいた。
あれ?
昨日まで気づかなかったけど、もう1つドアがあったんだ。此処も、部屋かな? 広いなあ……。私の家とは、大違いだ。
「そこで、何してる?」
エッ……。
「あっ。高橋さん。おはようございます」
「おはよう」
一番右のドアの部屋から高橋さんが出て来てこちらに近づいて来ると、ドアの前に立った。
「すみません。何か、まだ寝ぼけてたみたいで洗面所と間違えてしまって、こっちに来ちゃいました。此処も、お部屋ですか? 昨日まで、気づかなかったです。もう1つドアがあったなんて。あの……あとで、お部屋見学してもいいてすか? モデルルームみたいに」
「ああ」
「やったあ」
嬉しいな。他のお部屋が、どんな感じなのか見てみたい。
「それはそうと、お前。その顔、何だ?」
エッ……。
ハッ!
そうだ。目が腫れてたんだった。
「キャーッ。み、見ないで下さい。見ないで」
「見ないでと言われても、もう見た」
高橋さん。
何で、そんなにハッキリ言うんですか……。
左足を庇いながら急いで洗面所に向かい、目を冷やしながらメイクをしてからリビングに戻ると、高橋さんがキッチンで朝食を作っていた。