新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜
「あの、すみません。私、やります」
「もうできるから、お前は座ってろ」
「でも……」
「いいから、その目でも冷やしてろ」
うっ。
「はあい……」
それを言われると辛い。
大人しくソファーに座っていると、高橋さんが大きめのプレートを2つ、キッチンのカウンターの上に置いてリビング側に廻ると、そのプレートをダイニングテーブルの上に置いた。
「ゆっくり、こっちに来て座って」
「はい」
いい匂い。
ダイニングテーブルの椅子に座ろうとして、そのプレートを見て驚いてしまった。
「美味しそう」
ふわふわのオムレツの横に、色とりどりの野菜がいっぱいのサラダとトーストがのっている。高橋さんは、料理も上手なんだ。
「嫌いなものないって、言ってたよな」
「はい」
コーヒーの入った2つのマグカップをダイニングテーブルの上に置くと、高橋さんが椅子に座った。
「ほら、冷めないうちに食べるぞ。座って」
「はい。頂きます」
高橋さんと向かい合いながら、朝食を食べている。
何だか、夢のようだ。
緊張しているせいか、コーヒーばかり飲んでいたが、一口オムレツを口に入れると、ふわふわのオムレツが中に入っているベーコンと一緒に口の中で広がった。
「美味しい。高橋さん。このオムレツ、凄く美味しいです」
「フッ……。そう。それは、良かった」
その、はにかんだように、静かに微笑む高橋さんが好きだったりする。
「足の具合は、どうだ? 怪我した日よりは、少しはいい感じか?」
「はい。痛みは怪我した日よりは、なくなってきた気がします」
まだ痛みは、正直あった。けれど、あの怪我した夜よりは、痛みに慣れたせいもあるかもしれないが、少しマシになった気がしていた。
「高橋さんが昨日、寝ていらしたお部屋はゲストルームですか?」
「ああ。よく明良が泊まると、あの部屋で寝てる」
「そうなんですか」
明良さんは、高橋さんのお家によく泊まるんだ。
朝食を終えて食器を片付けた後、部屋を見せてもらおうと思って気合いを入れていると、高橋さんは、渋々、お部屋を見せてくれた。
昨日、高橋さんが寝ていた部屋は、ベッドが1台置いてあって、あとは大きなウォークインクローゼットがあった。
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