来る日も来る日もXをして

ギリギリのキス

新幹線の扉がプシューッと開き明日(あけひ)先輩がホームに降り立つ。私は(あらかじ)め教えてもらっていたその扉の前で待っていた。

「ごめん、こんなところまで・・・」

「そういうの今いいですから!時間ないし!」

私は先輩の手を引っ張りホームの中程まで行くと背伸びしてその唇にキスをした。

虚をつかれた表情の先輩の後ろから『キャー!』『おおっ!』と歓声が上がる。先輩の後に降りてきた学生っぽい男女グループだった。

「なになに、感動の再会!?」

「『一秒も待てない』って感じだったね。」

「彼女からってのがエモいよなぁ。」

「しかも美男美女だし!写真撮りたかったぁ!」

「それ盗撮じゃね?」

盛り上がる彼らの言葉に我に返ると顔が火を吹きそうだ。恥ずかしくて両手で顔を覆う。私の手がお煎餅だったなら、この熱い顔面ですぐに焼けるだろう。

───間に合わせることしか考えてなくてここが駅って忘れてた・・・恥ずかし過ぎる・・・。

すると、その手の甲が何かに触れた。目の前が暗くなり最近覚えた先輩の香りがする。そして苦しくなった。

「ヒュー!!」

「マジ、ドラマみたい!」

若者達が更に盛り上がっている。それもそのはず。先輩が私を抱きしめたのだ。

「・・・っちょ!」

「顔見られたくないんでしょ?」

「そ、そうですけど・・・でも新幹線乗らないと・・・。」

「!?そうだった!!」

先輩が慌てて振り返った時、最終の新幹線が高速で走り去って行った。
< 61 / 162 >

この作品をシェア

pagetop