暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
創介さんも言うように、今回の船荷紛失はまだ公になってはいない。
当然、そのために表立って動くことはできないし、日々の仕事だっていつも通り発生する。
何とかして創介さんに動けるだけの時間を作ってあげたいと思うけれど、私にできることなんて限られている。

「どうぞ」
いつも通りコーヒーを淹れてデスクに運ぶと、なぜか創介さんに睨まれた。

「何ですか?」
お礼を言われる分でも睨まれるようなことをした覚えはないが?

「バタバタと動くな。病み上がりなんだからじっとしていろ」
「そんなこと言われても・・・」

私が風邪をひき寝込んでいる間、創介さんが毎日部屋に顔を出してくれた。
一緒に食事をし、時には仕事を持ち込んで、私の側にいてくれた。
もっと食べろとか、いいから寝ていろとか、少し過保護気味なところはあったけれど、一緒にいられることが幸せだと感じられたし、私のことを気遣い世話をしようとしてくれる姿にちょっと感動もした。
今回のことでお互いの距離が縮まったのは間違いないのに、仕事に戻れば創介さんの俺様ぶりは健在だ。

「余計なことはしなくていいんだよ。自分のことは自分でするから」
「余計なことって・・・」

何もしなければ、私がここにいる意味がない。
きっと心配して言ってくれるのだろうとは思うけれど、私にとっては『お前はいらない』と言われているようなものだ。

「わかりました」
私はくるりと背を向けて、自分の席に向かった。
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