薙野清香の【平安・現世】回顧録

3.

 小さな建物に、レトロな雰囲気の漂う内装。町の喧騒から少し離れた、程よい立地の小さな古書店に清香はいた。
 商品である本はどれも、日焼けしてるし古びている。年数を重ねた紙特有の香りに包まれながら、清香は大きく深呼吸をした。


(ん~~~~落ち着くわぁ)


 鼻腔を擽る古い紙の匂いというのは本当に堪らない。清香はウットリと瞳を輝かせる。

 元来、洗練されたものを好む清香だが、それだけが全てだとは思っていない。

 ここには専門的な本も、新刊も揃っているわけではない。いわば寄せ集めでできた空間だ。
 洗練とは真逆の道を行くこの古本屋。けれど、子どもの頃から何度も通っている、清香のお気に入りの場所の一つだった。


(まさかここで働くことになるなんてねぇ)


 清香がこの店でアルバイトを始めてから1週間。鼻歌を歌いつつ、清香はぐるりと店内を見渡す。


 崇臣とのデートの後、清香は早速アルバイトを探し始めた。自分で稼いだお金で、崇臣にプレゼントを購入するためだ。
 けれど、夏休み限定、それも高校生を受け入れてくれるような店というのは中々どうして見つからない。


< 165 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop