薙野清香の【平安・現世】回顧録
(さてと。あいつは一体、どんな格好に落ち着いたのか……)


 清香の言うあいつとは、普段着に狩衣をチョイスする風変わりな男――――崇臣のことである。

 今日、一行が向かうのはいわゆる“夢の国”と呼ばれる場所だ。浴衣や、単なる和風テイストの服でも浮くであろう場所に、歴史ドラマから飛び出してきたかのような崇臣の狩衣が相容れるわけがない。下手をすれば、コスプレ認定され、入園拒否されかねないと清香は思っていた。


(まぁ、そんなわけで、事前に根回しをしたんだけど)


 それでも、相手はあの崇臣だ。清香の不安は拭いきれていなかった。
 清香よりも先に玄関に着いた芹香がドアを開ける。すると、ドアの向こうには東條と崇臣の二人が立っていた。


「ふっ…………ふぉぉ!」


 清香の口から、変な声が漏れた。開いた口が中々塞がらない。隣に立つ芹香が、何やら期待に満ちた表情で笑っていた。


< 78 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop