薙野清香の【平安・現世】回顧録
***


「ねぇ、崇臣」

「なんだ」

「あれ、何とかならないの?」


 清香はそう言って顎で前を示した。

 二人の目の前にあるのは、仲睦まじい芹香と東條の姿……ではなく、芹香と暁が楽しそうに並び歩いている姿だ。東條はというと、二人の後ろを満足そうに歩いていた。

 だが、清香が言いたいのは、そんな三人のことではない。


「暁、ほら!せっかく奏君と遊園地に来たんだし、もっと近くに寄って」


 清香の耳に、そんな忌々しい言葉が届いた。紫だ。先程からずっと、芹香と暁の少し前をちょろちょろと動き回りながら、そんなことをボソボソと囁きかけている。


(まったく、鬱陶しいったらありゃしない)


 清香は半目で紫を睨みつけながら、はぁと深いため息を吐いた。崇臣も不機嫌そうに頭を掻いて、首を横に振っている。


「本当は来るときに撒くはずだったんだが、ピタリとマークされてな」


 そう言って崇臣がチラリと後方へ鋭い視線を向けた。崇臣の視線の先には、ペコペコと頭を下げる年配の男性がいた。どうやら藤野家のお抱え運転手というやつらしい。


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